「免疫力を上げる」だけではない。    制御性T細胞から考えた、アロマセラピストの役割

2026年もスタートから、半年になります。新たな先日、第42回 西宮市ライフサイエンスセミナーに参加してきました。
今回のテーマは、
「制御性T細胞の免疫の仕組みにおける役割」
講師は、大阪大学 大学院医学系研究科・免疫学フロンティア研究センターの田中 淳先生です。
昨年に引き続き参加しているライフサイエンスセミナーですが、今回は特に楽しみにしていたテーマのひとつでした。
というのも、2025年のノーベル生理学・医学賞は、坂口志文先生、Mary E. Brunkow氏、Fred Ramsdell氏の3名に、**「末梢性免疫寛容に関する発見」**で授与されています。

アロマテラピーを学んでいると「免疫」という言葉に触れる機会は多くあります。
けれど今回のお話を聞いて、改めて感じたのは、
免疫は、単純に「高めればよい」ものではない。
ということでした。

私たちを守る免疫と、「攻撃しすぎない」ための仕組み

私たちの身体には膨大な数の細胞があり、その中で免疫細胞はとても大きな割合を占めています。
人類が長い歴史の中で、ウイルスや細菌などさまざまな外敵と共存し、生き延びてこられた背景には、この免疫システムの存在があります。
特に獲得免疫では、非常に多様な抗原受容体をつくり出すことで、多種多様な異物に対応できる仕組みを獲得してきました。
ところが、ここには大きな問題があります。
たくさんのものを見分け、攻撃できるということは、間違って自分自身を攻撃してしまう可能性も生まれるということです。
そこで必要になるのが、
「免疫寛容」
という仕組みです。
免疫細胞の中には、自分自身に反応してしまう細胞も生まれます。それを排除したり、働きを抑えたりすることで、自分の身体を攻撃しないようにしています。
そして、その重要な役割を担っているのが**制御性T細胞(Treg)**です。

坂口先生は1995年、CD25という分子を手掛かりとして制御性T細胞につながる重要な細胞集団を報告しました。その後、FOXP3という遺伝子が制御性T細胞の発生や機能に重要であることが明らかになり、現在の「末梢性免疫寛容」の理解へとつながっていきました。

「強い・弱い」では説明できない免疫
講演で興味深かったのが、TCR(T細胞受容体)のシグナルについてのお話でした。
T細胞は、何を認識するのか、どの程度のシグナルを受け取るのかといった非常に複雑な仕組みの中で選択されていきます。
講演ではSKGマウスやZAP-70などの研究についても紹介され、TCRシグナルの変化が、自己反応性T細胞や制御性T細胞の選択、さらには自己免疫疾患へとつながり得ることを学びました。
ここまで聞いていると、
「免疫力が高い=健康」
という単純な図式では、とても説明できません。

働くことと、抑えること。

攻撃することと、攻撃しないこと。
身体はその両方を絶妙に調整しながら、私たちを守っています。
ノーベル賞委員会も、制御性T細胞を、他の免疫細胞が自分自身の組織を誤って攻撃することを防ぎ、免疫反応が必要以上に続かないようにする重要な存在として説明しています。

自己免疫を防ぐTregが、がんでは違う顔を見せる
そして後半のお話で、さらに印象に残ったのが「がんと制御性T細胞」の関係でした。
Tregは、私たちの身体を自己免疫から守るためには欠かせません。
ところが、がん組織の中ではTregが集まり、今度はがん細胞を攻撃しようとする免疫反応まで抑えてしまう場合があります。

だからといって、Tregをすべて取り除いてしまえばよいわけでもありません。
全身のTregを失えば、今度は自己免疫の問題が生じる可能性があるからです。
そこで現在研究されているのが、腫瘍の中に存在するTregを選択的に標的にする方法です。
講演では「CCR8」という分子についても紹介されました。
大阪大学では、腫瘍に浸潤するTregに高く発現するCCR8を標的とすることで、自己免疫を避けながら抗腫瘍免疫を高める研究が進められ、抗CCR8抗体の臨床試験にもつながっています。

「抑える細胞だから悪い」のでもなく、
「免疫を活性化すればよい」のでもない。

必要なところでは働き、必要なところでは抑える。
人の身体が持つ調整機能の精密さに、改めて驚かされました。

そして、アロマセラピストとして考えたこと

ここからは、研究のお話ではなく、今回の講演を聞いて私自身が感じたことです。
アロマテラピーでも、
「免疫を整える」
「ストレスをケアする」
「休息をとる」
ということを大切にしています。
今回、身体の中で起こっているこれほど複雑で繊細な調整を知り、この3つの大切さを改めて感じました。

同時に、
そこに寄り添うことの難しさ
も感じています。
日々サロンでお客様に触れていると、同じ「疲れている」という言葉であっても、その背景は一人ひとり違います。

眠れていない方。
仕事や家族のことで頭がいっぱいの方。
身体は休んでいても、心が休めていない方。

だからこそ、精油を選んで、トリートメントをして、セルフケアをアドバイスする。
それだけがアロマセラピストの仕事ではないのだと思います。
私たちは医療者ではありませんし、アロマテラピーで免疫疾患やがんを治療することはできません。
けれど、その人の話を聴き、香りを一緒に選び、安心して身体を預けてもらい、静かに触れ、何もしなくてよい時間をつくることはできます。

「何をしてあげるか」だけではなく、
その人が本来持っている力を邪魔せず、その人自身が少し緩み、休み、自分の身体に戻っていける時間を支えること。
そこにもセラピーの本質があるのではないでしょうか。

「手当て」の意味を、もう一度考える

科学が進み、人間の身体の仕組みが明らかになればなるほど、私にはむしろ、人の身体を簡単な言葉で決めつけてはいけないように感じられます。
「この精油には、この作用があるから」
だけでは、人をみることはできません。

香りをどう感じているのか。
触れられることをどう感じているのか。
今、この方には何が必要なのか。
あるいは、何もしない方がよいのか。
それを感じ取りながら、その人のそばにいる。

アロマセラピストに求められるのは、トリートメントの技術や知識だけではなく、「人をみる力」なのかもしれません。

AIや医療技術がますます進歩していくこれからの時代だからこそ、
香りと、人の手と、人が人に向き合う時間。
私自身も「アロマセラピーで何ができるのか」だけではなく、

「アロマセラピストとして、人にどう寄り添えるのか」

を、これからも考え続けたいと思います。