アレルギーはなぜ起こる?新しい免疫細胞「ILC2」から知る、身体の絶妙なバランス

第42回ライフサイエンスセミナーへ

 

先週に引き続き、西宮市の「ライフサイエンスセミナー」に参加してきました。

「前回(Treg=抑える仕組み)の記事はこちら」

今回のテーマは、

「アレルギーの正体に迫る:新しい免疫細胞 ILC2とは」

講師は、大阪大学大学院医学系研究科・生体防御学教室の茂呂和世先生。

「免疫細胞」「サイトカイン」「ILC2」……。

言葉だけを見ると、なかなか難しそうなテーマです。

ところが、茂呂先生のお話がとにかく分かりやすく、そして面白い。

専門的な内容なのに、身近な例やユーモアを交えながらお話しくださり、どんどん免疫の世界に引き込まれていきました。

茂呂先生は、2010年に新しい免疫細胞「2型自然リンパ球(ILC2)」を世界に先駆けて報告された研究者です。現在もILC2の働きからアレルギー、感染症、代謝疾患など幅広い研究を進めておられます。

先日はNHKの番組にも出演されたとのお話もありました。

大学のインタビューを拝見すると、茂呂先生ご自身が大切にされているのが「自然体であること」。今回の講演でも、第一線の研究者でありながらとても親しみやすく、難しい研究を「面白い!」と思わせてくださる先生のお人柄が印象的でした。

そもそも「ILC2」って何?

私たちの身体には、細菌やウイルスなどから身を守る「免疫」という仕組みがあります。

T細胞、B細胞、マクロファージ、好酸球……。

さまざまな細胞が、それぞれの役割を持ちながら連携しています。

今回学んだILC2は、比較的最近その存在と役割が明らかになった自然リンパ球の一つ。

肺や腸、皮膚など、いわば**「身体と外の世界との境界」**に多く存在しています。

ILC2の興味深いところは、T細胞のように特定の抗原を認識しなくても反応できることです。

たとえば、花粉などに含まれるプロテアーゼという酵素などによって上皮細胞が刺激・損傷を受けると、そこからIL-33などの“危険を知らせる信号”が出されます。

それをILC2がキャッチすると、IL-5やIL-13などのサイトカインを産生します。IL-5は好酸球の働きと深く関係し、IL-13は気道の過敏性や粘液産生などに関係します。こうした反応が過剰になると、アレルギー症状につながることがあります。

「何に反応したの?」だけでは説明できないアレルギー

ここが今回、特に面白いと感じたところです。

これまでアレルギーというと、

「花粉に反応する」
「ダニに反応する」

というように、特定のアレルゲンを免疫が認識して起こるもの、と考えがちでした。

もちろん、そうした仕組みもあります。

一方、ILC2の研究によって、T細胞が特定の抗原を認識する仕組みを介さなくても、上皮細胞から発せられる危険信号によってアレルギー反応が起こり得ることが分かってきました。

講演では、遺伝的な要因や抗原特異的な要因だけでなく、温度変化、大気汚染、運動など、さまざまな要素についてもお話がありました。

「アレルギー=これが原因」

と、一つの原因だけでは説明できない。

私たちの身体は、思っている以上に周囲の環境からたくさんの情報を受け取っているのですね。

ILC2は「悪者」ではない

そして、ここも大切です。

「アレルギーを起こす細胞」と聞くと、

ILC2=悪い細胞

と思ってしまいそうになります。

でも、そうではありません。

ILC2が産生するサイトカインは、本来、寄生虫などから身体を守るためにも重要な働きをしています。また、ILC2は組織の恒常性や修復にも関係することが分かってきています。

必要なものだから、私たちの身体に備わっている。

ところが、必要以上に働けば、今度は身体にとって負担になる。

「働くこと」そのものが悪いのではなく、「どのように調整されているか」が大切。

ここがとても印象に残りました。

アレルギーだけではなかったILC2

さらに驚いたのが、ILC2の研究がアレルギーだけにとどまらないこと。

ILC2は脂質や神経由来の物質などにも反応し、現在では肥満や代謝、線維症、感染症などとの関係も研究されています。

講演では、小腸や脂肪組織、肝臓、インスリン抵抗性などのお話にも広がっていきました。

「免疫の細胞なのに、そこまで関係しているの?」

と驚きます。

でも考えてみれば、私たちの身体の中で「免疫系」「神経系」「内分泌系」と教科書の章のように完全に分かれて存在しているわけではありません。

互いに情報をやり取りしながら、一つの身体を保っている。

そのことを改めて感じました。

前回学んだ「Treg」ともつながってくる

先週のセミナーでは、制御性T細胞「Treg」について学びました。

そして今回のILC2。

二週続けて免疫について学んで、私の中で強く残ったことがあります。

それは、

「免疫は、強ければ強いほどよいわけではない」

ということ。

身体を守るために働く。
必要なときには反応する。
そして、必要がなくなれば抑える。

促進と抑制。

たくさんの細胞やサイトカインが情報をやり取りしながら、その絶妙なバランスの上に私たちの身体は成り立っています。

アロマセラピストとして、身体をどう見るか

アロマテラピーの世界でも、

「免疫力を上げる」
「○○に効く精油」

という表現を見かけることがあります。

でも、免疫について学べば学ぶほど、身体はそんなに単純ではないと感じます。

何か一つを「上げればよい」「抑えればよい」というものではなく、その人の身体の中では、数え切れないほどの細胞や物質が互いに影響し合いながら、今この瞬間もバランスを取っています。

だからこそ、アロマセラピストとして私が大切にしたいのは、精油の成分や作用だけを見ることではありません。

香りを感じること。
人の手でやさしく触れられること。
呼吸がゆっくりになること。
安心して休める時間を持つこと。

そうした時間を通して、その人が本来持っている身体の働きを邪魔せず、健やかに過ごすためのお手伝いをすること。

今回の講演を聞きながら、改めてそんなことを考えました。

「身体を知る」ということは、何かを治す方法を知ることだけではなく、

人間の身体がどれほど精巧で、絶妙なバランスの中で生きているのかを知ること。

そして、それを知れば知るほど、人に触れる仕事をする私たちは、身体に対してもっと謙虚でありたいと思います。

今回も、とても面白い学びの時間となりました。

そして何より、難しい免疫学を「もっと知りたい!」と思わせてくださった茂呂先生のお話が、とても印象に残るセミナーでした。