免疫の働きは、強ければよいわけではない。最新の免疫研究から学んだこと|西宮市ライフサイエンスセミナー最終回
先日、西宮市で開催された「第42回ライフサイエンスセミナー」の最終回に参加してきました。
今年のテーマは「免疫研究の新展開」。
全5回にわたり、第一線で活躍される研究者の先生方から、私たちの身体を守る免疫の仕組みや、最新の研究成果について学ぶ貴重な機会となりました。
前回の内容「アレルギーの正体に迫る:新しい免疫細胞 ILC2とは」についてはこちらから。
最終回となる第5回は、
「免疫老化と高齢者の病態への関与」
講師は、京都大学大学院医学研究科 がん免疫総合研究センターの佐藤有紀先生です。
今回のお話では、加齢によって免疫の働きがどのように変化するのか、そして、その変化が慢性炎症や病気とどのように関わっているのかを、最新の研究成果とともに学びました。
特に印象に残ったのは、
免疫は、ただ強ければよいというものではない。
ということでした。
加齢とともに変化する免疫の働き
私たちの身体には、細菌やウイルスなどの異物から身を守る免疫システムが備わっています。
しかし、年齢を重ねるにつれて、その働きも少しずつ変化していきます。
こうした加齢に伴う免疫機能の変化を「免疫老化」と呼びます。
免疫老化では、感染症への抵抗力やワクチンへの応答が低下する一方で、身体の中で炎症が長く続きやすくなることがあります。
この加齢に伴う慢性的な炎症は、
「インフラマエイジング(Inflammaging)」
と呼ばれています。
炎症は、本来、身体を守り、傷ついた組織を修復するために必要な反応です。
ところが、その炎症が必要以上に長引いてしまうと、かえって組織に負担をかけ、さまざまな加齢関連疾患に関わることが分かってきています。
つまり、身体を守るための仕組みが、状況によっては身体に不利益をもたらすこともあるのです。
新たに注目される「三次リンパ組織」とは?
今回の講演で中心となったのが、「三次リンパ組織(TLS)」という免疫の仕組みです。
私たちの身体には、リンパ節や脾臓など、免疫細胞が集まり、情報を交換しながら働く場所があります。
これらは「二次リンパ組織」と呼ばれています。
一方、三次リンパ組織は、慢性的な炎症などが起きている組織の中に、後から形成されるリンパ組織です。
T細胞やB細胞などの免疫細胞が集まり、互いに作用しながら免疫反応を維持したり、活性化したりする場所となります。
分かりやすくいえば、通常のリンパ節とは別に、必要な場所に形成される免疫活動の拠点のようなものです。
講演では、この仕組みが免疫のバックアップシステムとして働く可能性についても紹介されました。
ただし、この三次リンパ組織には、興味深い特徴があります。
それは、病気や身体の状態によって、良い働きにも悪い働きにもつながるということです。
高齢者の腎臓病と免疫の関係
高齢になると、腎臓が傷ついた後の回復が遅くなりやすいことが知られています。
佐藤先生の研究では、高齢の腎臓に形成される三次リンパ組織に、加齢とともに増える特徴的なT細胞やB細胞が集まり、互いに活性化し合うことで炎症が長引く仕組みが示されました。
本来、炎症は傷ついた組織を修復するために必要な反応です。
しかし、免疫細胞が炎症を持続させることで、修復が進みにくくなり、腎臓の機能にも悪影響を及ぼす可能性があります。
研究では、こうした免疫細胞の相互作用に関わる分子を標的とすることで、マウスの腎臓の炎症や線維化が軽減され、腎機能の改善が認められたことも紹介されました。
免疫の働きを一律に抑えるのではなく、病気を長引かせている特定の仕組みに働きかける。
今後の治療研究につながる、大変興味深いお話でした。
同じ三次リンパ組織が、がんでは味方になることも
さらに興味深かったのが、がん免疫との関係です。
腎臓病や自己免疫疾患では、三次リンパ組織が炎症を長引かせることがあります。
ところが、がん組織では、三次リンパ組織ががんに対する免疫応答を支える場所として働く場合があるのです。
近年、がん治療では、患者自身の免疫の力を利用する「がん免疫療法」が注目されています。
その中で、がん組織に三次リンパ組織が存在することと、免疫チェックポイント阻害薬による治療効果との関連も研究されています。
つまり、同じ免疫の仕組みでも、
ある病気では炎症を長引かせる原因となり、別の病気では身体を守る力になる。
免疫の働きは、私たちが想像する以上に複雑で、状況によって大きく異なるのだと感じました。
免疫の大切さは「強さ」だけではなく「バランス」
今回の講演を通して、特に心に残ったことがあります。
それは、免疫の働きを単純に「高める」「抑える」という考え方だけでは捉えられないということです。
免疫には、必要なときに働くことと、必要がなくなれば反応を収めること、その両方が求められます。
また、加齢による免疫の変化も、一概に良い・悪いと判断できるものではありません。
その人の年齢、身体の状態、病気の種類、炎症が起きている場所などによって、必要な免疫の働きは異なります。
今回の研究からは、必要な免疫反応を保ちながら、不必要な炎症を抑えることの重要性を改めて学びました。
全5回の免疫研究を学んで、アロマセラピストとして感じたこと
今回のセミナーを通して、私が改めて感じたのは、
私たちの身体は、一人ひとり違うということ。
同じ年齢であっても、身体の状態や生活背景、心身の感じ方は異なります。
そして、私たちが普段意識することのない身体の内側では、数えきれないほどの細胞が互いに関わり合い、絶妙なバランスを保ちながら生命を支えています。
その仕組みを知れば知るほど、人の身体の奥深さに驚かされます。
私はアロマセラピストとして、日々お客様の身体に触れています。
その中で、今回のように医学や生命科学を学ぶことは、単に知識を増やすためだけではないと感じています。
大切なお身体を預けてくださるお客様に対して、敬意を払うこと。
それにつながっているのだと思います。
身体の仕組みを理解することは、目の前のお客様をより丁寧に観察し、その方に合ったケアを考えることにもつながります。
そして、日頃から自分自身の心身の状態に目を向け、健康を大切にする習慣を持つこと。
アロマテラピーも、そんな日常のセルフケアに取り入れられる方法の一つです。
心地よい香りを楽しむこと。
穏やかな時間を過ごすこと。
優しいタッチによって、心身の緊張をゆるめること。
アロマテラピーそのものが免疫老化や慢性炎症を予防・治療するということではありませんが、日々のリラクゼーションや心身の健康を大切にする習慣を支えることはできます。
病気になってからだけでなく、日頃から自分の身体に関心を持ち、いたわること。
そんなきっかけを、アロマテラピーを通してお届けできればと思います。
これからのアロマセラピストに伝えたいこと
ivy-roomでは、アロマセラピストを目指す方々の養成にも携わっています。
精油の知識やトリートメント技術を身につけることは、もちろん大切です。
けれど、それだけで十分だとは思っていません。
身体の仕組みを学び続ける姿勢。
人の身体に触れることへの責任。
目の前の方を、一人の人として尊重する心。
そして、もう一つ大切にしたいことがあります。
アロマセラピスト自身も、自分の心と身体を大切にできること。
人に寄り添い、誰かの心身をいたわる仕事だからこそ、自分自身の状態にも目を向け、自分を大切にする時間を持ってほしいと思います。
知識や技術だけではなく、人としての温かさや丁寧さを育みながら、学び続けていく。
そんなアロマセラピストを、これからも育てていきたいと思っています。
今回の全5回のライフサイエンスセミナーは、免疫研究の最前線に触れるとともに、アロマセラピストとしての原点を改めて見つめ直す機会にもなりました。
科学を学ぶことは、人の身体への敬意を深めること。
そして、知れば知るほど、まだ分からないことがたくさんあると気づかされます。
だからこそ、これからも学び続けたい。
人の身体に触れる仕事の責任と喜びを大切にしながら、一人ひとりに寄り添えるアロマセラピストでありたいと思います。
アロマサロン・スクール ivy-room 山口良子
